お別れの瞬間

前日までは、まだ流動食も何とか飲んでいましたが…
北風強く冷たい一日となった先日、我家の愛犬クマが息を引き取った。
以前、猟犬と喧嘩し瀕死の重症を負った時も、半年前に腫瘍の手術をして麻酔で心停止した時も事なきを得たが、数日前から容態が急変し、自分の力で歩くことも食べることも出来なくなっていった…
その日はちょうど空手の練習日で、息子と道場までは行ったものの所用が重なり帰って来ていた。時を同じく、クマを病院に連れて行っていた妻が、点滴を終えて帰って来た。その後、流動食を少し飲ませ布団をかけて横に寝させていた。20分くらいしてからだろうか、突然悲鳴にも似た声でクマが泣き出したのである。息子が慌てて見に行くと、いつもと違う様子に、「早く来て!」と大きな叫び声をあげた。そこには、やっとのことで息をしているクマの姿があった。3人でやせ衰えた体にそっと手をあて、その様子を見守った。荒く深くしていた呼吸が次第に弱く浅く静かな呼吸になっていく… 同時に「南無妙法蓮華経」のお題目が口々から自然に流れ出てくる。妻も息子も、頬を濡らしながら懸命に体をさすっている。数分後、皆に見守れながら、弱くなった息が静かに止まった…
なんとも言えない、いい死顔をしていた。犬とすれば長生きで、17年という年月をお寺で過し、毎日お経を聞いて生活してきたお蔭もあったのかも知れない。
死に目に会うことは、容易ではない。だが今回、自らその瞬間を知らせ、そして最期を迎えたクマが、多くのことを伝えてくれた。沢山の想い出と、命の消えゆく瞬間を教えてくれたクマ、安らかに、そしてありがとう…